1747年にイギリス海軍軍医ジェームズ・リンドが行った「12人の水兵」の実験によってオレンジやレモンを食べた水兵だけが劇的に回復し、壊血病は柑橘類で予防できることが分かりました。
しかし、不思議なことに**「なぜ効くのか」**は誰にも分かりませんでした。
その謎が解き明かされるまで、実に約180年もの歳月が必要だったのです。
「効くこと」は分かっていた。でも理由は分からなかった
18世紀末には、イギリス海軍でレモンやライムが正式に支給されるようになり、壊血病はほぼ克服されました。
ところが当時は、まだ「ビタミン」という概念そのものが存在していませんでした。
人々は、
「柑橘類には何か体に良い成分が含まれている」
ということは経験的に知っていましたが、その正体は全く分からなかったのです。
「ビタミン」という考え方が誕生
20世紀初頭になると、「ある特定の栄養素が不足すると病気になる」という考え方が生まれます。
1912年、ポーランド出身の生化学者カシミール・フンクは、この未知の栄養素を**「ビタミン(Vitamin)」**と名付けました。
これをきっかけに、世界中でさまざまなビタミンの研究が急速に進みます。
ついにビタミンCを発見
1928年、ハンガリーの生化学者アルベルト・セント=ジェルジは、副腎や果物から未知の物質(後のビタミンC)を単離することに成功しました。
その後1932年、この物質が壊血病を予防する成分であることが明らかとなり、現在では**ビタミンC(アスコルビン酸)**として知られています。
アスコルビン酸(Ascorbic acid)という名称は、
「a(否定)」+「scorbutus(壊血病)」
に由来し、「壊血病を防ぐ物質」という意味が込められています。
この発見により、人類はついに壊血病の正体を科学的に説明できるようになりました。
セント=ジェルジは、この功績などにより1937年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

なぜ人間はビタミンCを作れないの?
ここで、多くの方が疑問に思うかもしれません。
実は、人間は体内でビタミンCを作ることができません。
一方、イヌやネコ、多くの哺乳類は肝臓でビタミンCを合成しています。
人間を含むサルの仲間(高等霊長類)やモルモットなどは、進化の過程でビタミンCを作るための遺伝子が働かなくなりました。
その理由は現在でも完全には解明されていません。
だからこそ、私たちは毎日の食事からビタミンCを補給する必要があるのです。
壊血病は「過去の病気」ではない
現在の日本で典型的な壊血病を診る機会は非常にまれです。 しかし、
・極端な偏食 ・野菜や果物を長期間ほとんど食べない生活
・極端な食事制限や偏ったダイエット
・アルコール依存症などによる栄養障害
・消化管疾患や摂食障害などで栄養状態が著しく偏った場合
・社会的孤立や生活困窮などにより十分な食事が取れない状況
などでは、現在でも壊血病が報告されています。
(Rivière E, et al. Clinical Nutrition. 2026;59:106601.)
バランスの良い食事を続けることが、壊血病を予防する最も大切な方法です。
まとめ ― 歴史は毎日の食卓につながっている
大航海時代、多くの命を奪った壊血病。
ジェームズ・リンドによる12人の水兵の実験。
そして約180年後に明らかになったビタミンCの正体。
一つの病気を理解するまでには、多くの人々の観察、実験、そして科学の積み重ねがありました。
私たちが毎日口にする野菜や果物には、人類の歴史を変えた栄養素が含まれています。
たった一つの栄養素の発見が、人類の歴史を変え、数え切れない命を救いました。
毎日の食事は、未来の健康を支える最も身近な「予防医療」の一つなのかもしれません。
