― 豚肉やジビエの加熱不足で感染? 消化器内科医がわかりやすく解説します ―
はじめに
皆さんは「肝炎」と聞くと、どのような病気を思い浮かべますか?
「B型肝炎やC型肝炎なら知っているけれど、E型肝炎はよく知らない」という方もいらっしゃるかもしれません。
E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(HEV)への感染によって起こる肝炎です。
日本国内でも感染が確認されており、豚肉や豚レバー、イノシシ・シカなどの野生動物の肉を、生または加熱不十分な状態で食べることによって感染するケースが知られています。
多くは急性肝炎として経過しますが、まれに重症化することがあります。また、免疫機能が低下している方では慢性化することもあります。
今回は、外食やBBQ、キャンプなどでお肉を楽しむ機会が多い方にもぜひ知っていただきたい「E型肝炎」の基本と予防法について、わかりやすく解説します。
1.E型肝炎ってどんな病気?
E型肝炎ウイルス(HEV)に感染することで起こる肝炎です。
主に、
- 豚肉や豚レバー
- イノシシやシカなどのジビエ
- これらの肉や内臓を生または加熱不十分な状態で食べること
などが感染の原因となります。
潜伏期間は?
感染してから症状が出るまでには時間がかかります。
**通常は2~9週間程度(平均約6週間)**とされており、「あのとき食べたお肉が原因だったのか」と、忘れた頃に症状が出ることがあります。
主な症状
症状はA型肝炎などと似ており、
- 発熱
- 全身のだるさ(倦怠感)
- 食欲不振
- 吐き気
- 腹痛などの消化器症状
- 黄疸(目や皮膚が黄色くなる)
- 尿が濃くなる
などがみられます。
一方で、感染しても症状がはっきりしない場合もあります。
多くは自然に回復しますが、まれに重症化して急性肝不全に至ることがあります。
2.なぜ「新鮮なお肉」でも感染するの?
・飲食店・焼肉・BBQでの感染リスク
「新鮮なお肉だから大丈夫」
「高級店だから安全」
「表面だけ焼いたレアなら大丈夫」
――このように考えてしまう方もいるかもしれません。
しかし、お肉の「新鮮さ」とE型肝炎ウイルスの感染リスクは別の問題です。
厚生労働省も、豚肉や豚レバー、イノシシ・シカなどのジビエについて、新鮮なものであっても生食や加熱不十分な状態で食べないよう注意喚起しています。
実際にあったE型肝炎の集団感染
2004年、北海道内の焼肉店で豚レバーなどを食べた6人がE型肝炎ウイルスに感染し、うち1人が劇症肝炎を発症して死亡する事故が発生しました。
原因として、豚レバーなどの豚由来食品を十分に加熱せずに食べた可能性が考えられています。
この事例は、豚レバーなどを生・加熱不十分な状態で食べることが、重い肝炎につながる可能性を示しています。
「新鮮だから大丈夫」と考えず、豚肉やジビエは中心部まで十分に加熱して食べることが大切です。
飲食店や焼肉店でも注意
例えば、
- 豚レバーなどをレアで食べる
- 生焼けの豚肉を食べる
- ジビエを中心部まで十分に加熱せず食べる
- 生肉を触ったトングや箸を、そのまま焼いた肉を食べるために使う
といった場合には、感染リスクがあります。
特に焼肉やBBQでは、生肉を扱ったトングや箸を介して、加熱済みの肉や野菜などに病原体が付着する**「二次汚染(交差汚染)」**にも注意が必要です。
豚肉やジビエを介してE型肝炎ウイルスに感染すると、肝臓に炎症が起こることがあります。感染を防ぐためには、十分な加熱と調理器具の使い分けが大切です。


3.特に注意が必要な方
① 妊婦さん
妊娠中にE型肝炎に感染すると、重症化することがあるため、特に注意が必要です。
妊娠中、または妊娠の可能性がある方は、豚肉やジビエを生・加熱不十分な状態で食べることを避け、中心部まで十分に加熱しましょう。
② 免疫機能が低下している方
臓器移植後など、免疫機能が低下している方では、E型肝炎が慢性化することがあります。
そのため、免疫抑制治療を受けている方なども、生・加熱不十分な豚肉やジビエを避けることが大切です。
③ 肝臓に病気がある方
すでに肝臓の病気がある方では、急性肝炎が加わることで肝臓への負担が大きくなる可能性があります。
肝臓に持病がある方は、特に生・加熱不十分な肉を避けるようにしましょう。
4.よくある疑問
Q1.2015年に「豚の生レバー」が法律で禁止されたのはなぜ?
A.豚肉や豚の内臓を生で食べることには、E型肝炎ウイルスだけでなく、食中毒菌などによる健康被害のリスクがあるためです。
2015年6月12日から、食品衛生法に基づき、豚のお肉や内臓を生食用として販売・提供することが禁止されました。
豚レバーなどにはE型肝炎ウイルスのほか、サルモネラやカンピロバクターなどの病原体が存在する可能性があります。
「新鮮だから安全」ということではありません。
豚肉や豚レバーは、中心部まで十分に加熱して食べることが大切です。
Q2.E型肝炎は海外旅行などで感染する病気ではないの?
A.海外だけでなく、日本国内でも感染します。
E型肝炎は世界中でみられる感染症です。
衛生環境が十分に整っていない地域では、汚染された水や食品を介した感染が問題となることがあります。
一方、日本国内でもE型肝炎の感染が確認されており、豚肉やイノシシ・シカなどの肉を介した感染事例も報告されています。
ただし、すべての患者さんで感染源が特定できるわけではありません。
そのため、「E型肝炎=海外で感染する病気」と考えるのは適切ではありません。
Q3.冷凍すればE型肝炎ウイルスは大丈夫?
A.冷凍したからといって、十分な加熱の代わりになるとは考えないでください。
冷凍したジビエなどでも、中心部まで十分に加熱することが重要です。
「冷凍してあるから生でも大丈夫」と考えるのは避けましょう。
Q4.レアに焼けば大丈夫?
A.中心部まで十分に加熱することが重要です。
E型肝炎ウイルスなどの病原体は、十分な加熱によって感染性を失わせることができます。
厚生労働省は、ジビエについて、中心部を75℃で1分間以上、またはこれと同等以上の方法で加熱することを案内しています。肉の中心部まで色が変わっていることも、加熱状態を確認する一つの目安です。
レア・半生の状態ではなく、中心部までしっかり火を通しましょう。
5.今日からできる予防策
E型肝炎を予防するためには、豚肉やジビエを生・加熱不十分な状態で食べないことが基本です。
① 中心部まで十分に加熱する
豚肉、豚レバー、イノシシ・シカなどのジビエは、中心部までしっかり火を通しましょう。
ジビエについては、中心部75℃で1分間以上、またはこれと同等以上の加熱が推奨されています。
② 生肉と加熱済みの肉を扱う器具を分ける
焼肉やBBQでは、
「焼くためのトング」と「食べるための箸」を分ける
ことが大切です。
生肉を触ったトングや箸を、そのまま焼き上がった肉に使わないようにしましょう。
③ 生肉が触れた調理器具にも注意する
生肉を切った包丁やまな板などは、十分に洗浄・消毒してから別の食品に使用しましょう。
生肉から他の食品への二次汚染を防ぐことも重要です。
④ 豚肉・ジビエの生食は避ける
「新鮮だから大丈夫」
「信頼できる店だから大丈夫」
「冷凍してあるから大丈夫」
とは限りません。
豚肉やジビエは、生食ではなく、中心部まで十分に加熱して食べることが基本です。
おわりに
E型肝炎は、B型肝炎やC型肝炎と比べると、一般にはあまり知られていない肝炎かもしれません。
しかし、日本国内でも発症することがあり、豚肉やジビエの生食・加熱不十分な肉の摂取が感染の原因となることがあります。
特に、
「お肉を食べてから1~2か月ほどして、体が重い・だるい」
「尿の色が濃くなった」
「目や皮膚が黄色っぽくなってきた」
といった症状がある場合には、単なる疲れや胃腸の不調と思い込まず、医療機関を受診することをおすすめします。
お肉やジビエは、しっかり加熱して、安全においしく楽しみましょう。
参考情報
・厚生労働省「E型肝炎ウイルスの感染事例・E型肝炎Q&A」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/hepatitis-e-virus_qa.html
・厚生労働省「お肉はよく焼いて食べよう」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049964.html
・厚生労働省「ジビエ(野生鳥獣の肉)の衛生管理」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/01_00021.html
・野生動物の肉や豚レバーなどの摂食によるE型肝炎ウイルス感染について
https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020101000363/
