卵や鶏肉だけが原因ではありません。人から人への感染や調理中の二次汚染にも注意
最近、飲食店などでの食中毒事件がニュースになることもあり、「サルモネラ菌」という言葉を耳にする機会が増えました。
サルモネラ食中毒は、卵や鶏肉など身近な食品が原因となることが多い一方、食品の調理過程での二次汚染や、感染した人の手指などを介した感染が起こることもあります。
今回は、サルモネラ食中毒の基本的な症状や治療、抗菌薬の必要性、人から人への感染、さらに家庭で注意したい「二次汚染」について、消化器内科の立場から分かりやすく解説します。
1.2026年8月、東京都港区で発生した「冷やし蟹ラーメン」の食中毒
2026年8月、東京都港区で開催されたイベントで販売された「冷やし蟹ラーメン」を原因とするサルモネラ食中毒が発生しました。
東京都保健医療局の2026年9月3日の公表によると、8月22日・23日にイベントを訪れた人のうち、**78名(1~61歳)**が下痢、腹痛、発熱などの症状を呈し、3名が入院しましたが、全員すでに退院しています。
患者全員に共通していた食事が、イベント会場で販売された冷やし蟹ラーメンであったこと、また複数の患者と調理従事者の便からサルモネラ属菌が検出されたことなどから、港区みなと保健所は、このラーメンを原因とするサルモネラ食中毒と断定しました。
一方で、今回の調査では、検査された食品2検体や調理施設の拭き取り検体からサルモネラ属菌は検出されていません。
そのため、「手洗いが不十分だった」「温度管理が悪かった」など、具体的な原因を断定することはできません。
この事件からも、食中毒の原因を調べるには、患者・調理従事者・食品・調理環境などを総合的に調査する必要があることが分かります。
2.サルモネラ食中毒の症状と潜伏期間
サルモネラ属菌は、汚染された食品などを介して口から体内に入り、急性胃腸炎を起こします。
潜伏期間は通常8~48時間程度です。
主な症状は、
- 下痢
- 腹痛
- 発熱
- 吐き気・嘔吐
などです。
症状の程度には個人差があり、比較的軽症で済む場合もあれば、強い下痢や発熱によって脱水状態になることもあります。
特に乳幼児、高齢者、免疫機能が低下している方などでは、まれに菌が腸管から血液中へ侵入する菌血症などの重症感染症を起こすことがあります。


3.治療に「抗菌薬」は必要?
「食中毒になったのだから、抗菌薬で菌を退治してほしい」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、健康な成人に起こる一般的なサルモネラ腸炎では、必ずしも抗菌薬が必要になるわけではありません。
基本となるのは、
十分な水分補給などの対症療法
です。
多くの場合、患者さん自身の免疫によって自然に回復していきます。
抗菌薬を使用することがあるケース
一方で、
- 重症のサルモネラ感染症
- 菌血症などの侵襲性感染症が疑われる場合
- 乳幼児
- 高齢者
- 免疫機能が低下している方
などでは、重症化のリスクを考慮して抗菌薬が検討されます。
つまり、
「サルモネラ=抗菌薬」ではなく、患者さんの年齢、症状、全身状態、重症化リスクなどを考えて治療方針を決める
ことが重要です。
また、抗菌薬は腸内細菌叢に影響を与えたり、サルモネラの排菌が長引いたりする可能性もあるため、必要性を考えずに一律に使用するものではありません。
4.下痢止めは飲んでも大丈夫?
サルモネラによる急性胃腸炎では、下痢止めを自己判断で使用することはおすすめできません。
特に発熱や血便などを伴う場合には、下痢止めを使用する前に医療機関へ相談してください。
厚生労働省も、サルモネラによる胃腸炎では、安易に市販の下痢止めを使用せず、医療機関を受診して医師の指示に従うよう案内しています。
何よりも重要なのは、下痢や発熱によって失われる水分と電解質を補給することです。
水分が十分に取れない、尿が極端に少ない、ぐったりするなど、脱水が疑われる場合には早めに受診してください。
5.サルモネラは「人から人へ」うつることがあります
「食中毒なら、食べ物から感染するだけでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、サルモネラは**便に含まれる菌が手指などを介して口に入る「糞口感染」**によって、人から人へ感染することがあります。
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症のように、咳やくしゃみを介して広がる感染症とは異なります。
そのため、
同じ職場で隣の席に座っているだけで感染する、というような心配は基本的にありません。
一方で、家庭や保育施設など、トイレ介助やオムツ交換、食事介助などを行う環境では注意が必要です。
| 環境・場面 | 感染が広がるしくみ・実際の事例 |
| ① 家庭内での二次感染 | サルモネラに感染した人の便に含まれる菌が、排泄後の手指などを介して他の家族の口に入ることで、家庭内で二次感染が起こることがあります。 【事例】2011年に北海道で発生したサルモネラ食中毒では、一次発症者からの家庭内二次感染が多数確認されました。一次患者・二次患者・原因食品から検出された菌株は、解析で同一株と確認されています。 |
| ② 保育施設など | 乳幼児では自分で十分な手洗いをすることが難しく、オムツ交換や排泄介助などを介して感染が広がることがあります。 【事例】広島市の保育園では、園内で飼育されていたミドリガメなどの飼育環境からも園児と同じ血清型のサルモネラが検出され、ペットとの接触などを介した感染拡大が疑われた事例が報告されています。 |
サルモネラは、空気感染する感染症ではありません。主に、感染者の便に含まれる菌が手指や環境などを介して口に入ることで感染します。ご家庭に感染者がいる場合は、トイレの後やオムツ交換の後の石けんによる手洗い、タオルの共用を避けることなどが大切です。
6.実際にあった「保育施設でのサルモネラ集団感染」
サルモネラの感染経路を考えるうえで、興味深い国内事例があります。
1991年・広島市の保育園
1991年、広島市内の保育園で、園児の間に下痢や発熱が相次ぎ、Salmonella Enteritidis(サルモネラ・エンテリティディス)が検出された集団感染事例が報告されています。
調査では、園内で飼育されていたミドリガメなどのペットや、その飼育環境からも園児と同じ血清型のサルモネラが検出されました。
また、給食などからはサルモネラが検出されなかったことから、ペットとの接触などを介して感染が広がった可能性が考えられました。
この事例は、サルモネラが食品だけから感染するわけではなく、
動物 → 手指 → 口
という経路でも感染することを示す代表的な国内事例です。
厚生労働省も、ミドリガメなどの爬虫類に触れたり、飼育箱などを洗浄した手指にサルモネラが付着し、それが口に入ることで感染する可能性があると注意喚起しています。
特に小さなお子さんは、動物に触れた後に無意識に手を口へ持っていくことがあるため、注意が必要です。
7.保育園の給食が原因となったサルモネラ食中毒の実例
一方、1997年7月には、長野県飯田市内の保育園で、給食を原因とするSalmonella Enteritidisによる食中毒が発生しました。
この事例では、喫食者152名のうち63名の便からサルモネラが検出され、保育園で保存されていたマカロニサラダの検食からも同じサルモネラが検出されました。
検出された菌の性状やファージ型なども一致したことから、保育園の給食を原因とするサルモネラ食中毒と断定されています。
さらに興味深いことに、この事例では、調理設備の配置などから、食品そのものの直接汚染だけでなく、調理環境を介した二次汚染の可能性も否定できないと報告されています。
このように、サルモネラ食中毒では、
「どの食材が汚染されていたのか」だけでなく、「調理の途中で菌が別の食品に移らなかったか」
という視点も重要です。
8.調理中に起こる「二次汚染」に注意
家庭でも特に注意したいのが、**二次汚染(交差汚染)**です。
例えば、サルモネラに汚染された生肉を扱った後、その手や包丁、まな板、トングなどを介して、加熱前の野菜や調理済みの食品に菌が移ることがあります。
こんな場面に注意しましょう
- 生肉を触った手で、そのまま他の食材を触る
- 生肉を切ったまな板で、洗浄せずに野菜を切る
- 生肉に使用した箸やトングを、加熱後の料理にも使用する
- 生肉から出た肉汁が、他の食品に付着する
- 冷蔵庫内で生肉の肉汁が他の食品にかかる
特に、生肉を扱った後に手を洗わず、サラダなどの加熱しない食品を扱うことは、二次汚染につながる可能性があります。
9.家庭でできるサルモネラ対策
サルモネラ食中毒を防ぐためには、特別なことをする必要はありません。
基本的な衛生管理を丁寧に行うことが大切です。
① 生肉は他の食品に触れさせない
購入した生肉は、肉汁が他の食品にかからないよう、袋や容器に入れて持ち帰りましょう。
冷蔵庫では、肉汁が他の食品にかからないよう、密閉できる容器などに入れて下段に置くと安心です。
② 生肉を洗わない
鶏肉などの生肉を水道で洗うと、周囲に水滴が飛び、かえって細菌を広げる可能性があります。
生肉は基本的に洗わず、中心部まで十分に加熱することが大切です。
③ 包丁・まな板・トングを使い分ける
生肉を扱った器具は、そのまま別の食品に使用せず、十分に洗浄してから使用しましょう。
特に、
生肉 → サラダなどの加熱しない食品
という順番で同じ器具を使わないことが重要です。
④ 生肉を触ったら手を洗う
生肉を触った後は、石けんを使って手を洗いましょう。
手を洗う前に、冷蔵庫の取っ手や調味料の容器などに触れると、そこへ細菌を広げてしまう可能性があります。
10.家族にサルモネラ感染者がいる場合
家庭内にサルモネラ感染者がいる場合には、特にトイレの後の手洗いを徹底しましょう。
感染者本人だけでなく、介助する家族も、
- トイレの後
- オムツ交換の後
- 排泄物を処理した後
- 食事を作る前
には、石けんと流水で手を洗うことが大切です。
タオルを介した感染を防ぐため、共用を避けることも有効です。
また、感染者が調理に携わる場合には、衛生管理に十分注意してください。
サルモネラは、症状が改善した後もしばらく便中に排菌されることがあります。そのため、「症状が治った=すぐに菌が完全になくなった」とは限りません。
11.こんな症状がある場合は受診を
サルモネラを含む感染性胃腸炎では、下痢や腹痛が自然に改善することもあります。
しかし、
- 強い腹痛が続く
- 水分を飲んでも吐いてしまう
- 尿が少ない
- ぐったりする
- 高い発熱が続く
- 血便がある
- 下痢が強く続いている
- 乳幼児、高齢者、免疫機能が低下している方に症状がある
といった場合には、早めに医療機関を受診してください。
特に脱水が強い場合には、点滴などの治療が必要になることがあります。
当院からのメッセージ
サルモネラ食中毒というと、「生卵や鶏肉を食べたから起こる病気」というイメージがあるかもしれません。
しかし実際には、
食品そのものの汚染
調理中の二次汚染
感染した人の手指を介した感染
動物との接触による感染
など、さまざまな感染経路があります。
また、サルモネラ腸炎では、すべての患者さんに抗菌薬が必要になるわけではありません。症状や年齢、全身状態などを考慮して治療方針を決めることが大切です。
激しい下痢や腹痛、発熱などがある場合には、自己判断で下痢止めなどを使用せず、十分な水分補給を心がけてください。
当院では、症状や経過、食事歴などを確認し、必要に応じて検査や点滴などの治療を行っています。
気になる症状がある場合は、無理をせずご相談ください。
参考出典
・東京都保健医療局「食中毒の発生について 港区内で開催されたイベントで販売された食事による食中毒」(2026年9月3日)
・厚生労働省「ミドリガメ等のハ虫類の取扱いQ&A」
・厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き」
・1991年 広島市の保育園事例 病原微生物検出情報(IASR), Vol. 12, No. 11 (No. 141), p. 4, 1991年11月
・1997年 長野県飯田市の保育園事例 病原微生物検出情報(IASR), Vol. 18, No. 12 (No. 214), p. 281-282, 1997年12月
・佐藤俊哉ほか「2011年北海道で発生したサルモネラ食中毒と二次感染事例」日本環境感染学会誌 2012;27(1):20-24.
