暑い季節の川遊びやキャンプ、バーベキュー。
澄んだ川で遊んだり、釣った魚を食べたりすることは、自然を満喫する格別のひとときです。
一方で、川や池などの水には、目には見えないさまざまな微生物が存在しています。
その一つが、Aeromonas(エアロモナス/エロモナス)です。
Aeromonasは主に河川や湖沼などの淡水環境に生息する細菌で、魚などの水生生物にも感染します。人に感染した場合には、下痢などの腸管感染症を起こすほか、傷口から侵入して皮膚・軟部組織感染を起こしたり、まれに血液中に入り、重症化したりすることがあります。
今回は、Aeromonas感染症の感染経路、実際に報告された事例、症状、治療、そして水辺でできる予防について詳しく解説します。
1.Aeromonas とは?
Aeromonasは、主に河川・湖沼などの淡水環境に生息するグラム陰性桿菌です。沿岸海域にも存在しますが、特に淡水環境に多く生息しています。
もともとは魚類、両生類、爬虫類などの病原菌として知られていましたが、1950年代以降、人の感染症を起こす細菌としても注目されるようになりました。
人の感染症では、主に以下の3種が知られています。
- Aeromonas hydrophila(A. ハイドロフィラ)
- Aeromonas caviae(A. キャビエ)
- Aeromonas veronii(A. ベロニイ)
人では主に腸管感染による下痢症を起こすほか、創傷感染や腸管外感染症を起こすことがあります。特に慢性肝疾患、糖尿病などの基礎疾患がある方や、免疫機能が低下している方では、重症の腸管外感染症に注意が必要です。
2.実際に報告されている感染事例
日本でも報告された食中毒事例
1990年6月、愛知県犬山市において、腹痛や下痢を主症状とする食中毒事例が発生しました。
調査では、患者、残品食品、井戸水、調理器具などから複数のAeromonas属菌が検出され、その中には毒素(ヘモリジン)を産生する A. hydrophila も含まれていました。調査結果からは、Aeromonasを含む井戸水が食品を汚染し、食中毒につながった可能性が考えられました。
ただし、ノロウイルスや病原性大腸菌のように「日常的に大規模な集団下痢症が頻繁に起こる」わけではありません。専門学会や国のサーベイランスでも、Aeromonasによる確実な集団発生は極めて稀であり、日常の腸管感染はお一人おひとりの「散発例」として発生することがほとんどです。
海外では病院内での集団発生も
一方、海外では Aeromonas hydrophila による院内感染のアウトブレイクも報告されています。
ある報告では、入院患者19人からこの菌が分離され、そのうち3人が肺炎を発症しました。
Aeromonasは通常の腸管感染だけでなく、免疫機能が低下した患者などでは、肺炎を含む腸管外感染症を起こすことがあります。このことからも、Aeromonasは「単に川の水でお腹を壊す菌」というだけでなく、患者さんの健康状態によっては重症感染症の原因になり得ることが分かります。
3.どこから感染する?主な3つの経路
Aeromonasは、主に次のような経路から人に感染します。
① 口から入る(経口感染)
- 汚染された川の水や井戸水の飲用
- 汚染された食品や、十分に加熱されていない魚介類の摂取
- 調理器具や生水を介した食材への二次汚染
【注意】 Aeromonasは水環境などに広く存在するため、便から菌が検出されたからといって、その菌が100%下痢の直接の原因(真犯人)とは限りません。お腹を壊したタイミングでたまたま腸内を通過していた菌が検出されるケースもあるため、症状や経過を総合的に診て判断します。
② 傷口から入る(創傷感染)
川や池などで遊んでいる際に、
- すり傷・切り傷
- 釣り針による傷
- 魚のヒレなどによる刺し傷
などに水が触れることで、傷口から菌が侵入することがあります。特に、慢性肝疾患、糖尿病、悪性腫瘍などの基礎疾患がある方や、免疫機能が低下している方では、重症化に注意が必要です。
③ 目から入る(眼感染症)
水中の微生物が目に入ることで、角膜炎などの眼感染症を起こすことがあります。
Aeromonasに限らず、コンタクトレンズを装用したまま川・湖・池などの水に入ることは絶対に避けましょう。
4.どのような症状が出る?主な臨床タイプ
Aeromonas感染症では、感染した部位によって症状が異なります。
| 臨床タイプ | 主な症状・特徴 |
| ① 腸管感染症 | 下痢、腹痛、発熱、吐き気など。多くは軽症ですが、水様便から血便まで様々です。 |
| ② 皮膚・軟部組織感染 | 傷口の赤み、腫れ、痛み、膿など。まれに重症化すると急速に組織が壊死する「壊死性筋膜炎」に進展することがあります。 |
| ③ 菌血症・敗血症 | 発熱、悪寒、血圧低下など。肝疾患や悪性腫瘍などの基礎疾患がある方で重症化リスクが高まります。 |
| ④ その他の感染症 | まれに角膜炎、肺炎、胆管炎なども報告されています。発症には、コンタクトレンズの不適切な管理、汚染水の誤嚥、胆道疾患など、感染部位に応じた背景が関係することがあります。 |
特に注意したいのが、傷口からの感染が急速に進行するケースです。
傷の周囲が急激に赤く腫れ上がる、耐えがたいほど強い痛みがある、水疱ができる、皮膚の色が変化する、高熱が出るといった場合には、重い皮膚・軟部組織感染症の疑いがあります。
5.重症化するリスク:健康な人と基礎疾患のある方の違い
Aeromonasによる菌血症は比較的まれですが、重篤な基礎疾患を持つ方では命に関わる重症例となることがあります。
- 国内の大学病院からの報告(2000~2010年)
Aeromonas菌血症を発症した7例の検討では、7人中6人に悪性腫瘍などの重い基礎疾患があり、4人が敗血症性ショックを起こし、2人が死亡しました。また、2人では生魚介類を食べた後に発症していました。 - 国内の多症例検討(1994~2010年・36例)
Aeromonas菌血症36例の検討では、基礎疾患として固形腫瘍(がん)、慢性肝疾患、糖尿病などが多く認められ、全体の30日死亡率は19%でした。 - 壊死性筋膜炎(NF)症例(2001~2021年・72例)
Aeromonasによる壊死性筋膜炎(NF)症例を検証し、抗菌薬適正使用プログラムと医療従事者への教育が臨床転帰(切断率や死亡率)をいかに改善したかを報告
このように、「健康な人に起こる軽症の腸管感染症」と、「基礎疾患を持つ方に起こる菌血症・壊死性筋膜炎などの重症感染症」は全く分けて考える必要があります。
6.【治療】軽症の腸管感染症では「水分補給」が基本
「検査でAeromonasが出たから、すぐに強い抗生剤を飲まなければならない」わけではありません。
健康な方の軽症な腸炎であれば、脱水を防ぐための水分補給(経口補水液など)と安静を保つことで、数日から1週間程度で自然に回復することがほとんどです。無理に市販の下痢止めで便を止めることは避け、対症療法を中心に経過を見ます。
医療機関での治療が必要になるケース
- 高熱が続く、血便が出る、激しい腹痛・強い脱水がある場合
- 肝硬変、糖尿病、悪性腫瘍などの基礎疾患がある、または免疫機能が低下している場合
- 菌血症や重症感染症が疑われる場合
Aeromonasはペニシリン系など一部の抗菌薬を分解する酵素を持っているため、抗菌薬を使用する際は、菌の性質に適した薬剤(ニューキノロン系や第3・第4世代セフェム系など)を選択します。
皮膚・軟部組織の深部感染には要注意
川や湖などの淡水に触れた傷口に、赤みや腫れ、痛みが現れた場合は注意が必要です。特に、痛みや腫れが急速に強くなる、水疱ができる、皮膚の色が変化するといった場合には、重症の皮膚・軟部組織感染症の可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。
重症例では、抗菌薬による治療に加え、感染した組織を取り除く外科的処置が必要になることがあります。
7.【予防】水辺で気をつけたい5つのポイント
- コンタクトレンズを装用したまま水に入らない(最重要)
川や湖、海に入る際はコンタクトレンズを外しましょう。レンズと角膜の間に菌が入り込むと重篤な角膜炎を引き起こします。度付きゴーグルなどの使用をおすすめします。 - 川や池の生水を絶対に飲まない
澄んで見えても自然水には微生物が存在します。飲み水として使用せず、うがいや洗顔、食器洗いにも綺麗な水道水を使用してください。 - 傷があるときは入水を控える・受傷時は速やかに流水洗浄
すり傷や切り傷がある時は水辺への入水を控えるか、完全防水テープで保護しましょう。怪我をした場合は綺麗な水道水でしっかり洗い流してください。 - 魚や食材は十分に加熱する
釣った淡水魚や魚介類を生や加熱不足で食べるのは避け、中心部までしっかり加熱(中心温度75℃で1分以上)して調理しましょう。冷蔵庫を過信せず早めに食べ切ることも大切です。 - 水辺で遊んだ後の異変を見逃さない
水遊びの後に「激しい下痢や高熱」「傷口の急激な腫れ・激痛」「目の強い痛みや視力低下」が現れた場合は、放置せず早めに医療機関(内科・皮膚科・眼科等)を受診してください。


8.まとめ
Aeromonas(エロモナス)は、身近な水環境に広く存在する細菌です。
健康な方に起こるお腹の風邪(軽症の腸管感染症)であれば、過度に恐れる必要はなく、水分補給で自然に改善することが大半です。一方で、「基礎疾患をお持ちの方」「傷口からの急速な皮膚感染」「目の感染」においては、迅速な医療機関での処置が極めて重要になります。
自然を安全に楽しむためにも、「生水を飲まない」「傷口を水に浸けない」「コンタクトを外す」という基本を守り、万が一異常を感じた際は早めの受診を心がけましょう。
参考文献・関連情報
- エロモナス・ハイドロフィラ/ソブリア感染症
国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/aeromonas-hydrophila-and-sobria-infection/detail/index.html - 施設内感染対策Q&A:エロモナス菌について
一般社団法人 日本感染症学会(施設内感染対策委員会)
https://www.kansensho.or.jp/sisetunai/2011_10_pdf/16.pdf - 国内におけるAeromonas食中毒疑い事例と分離菌株の性状(愛知県犬山市事例)
Tanaka K, et al. An outbreak of food poisoning suspected due to Aeromonas and characteristics of the isolated strains. Nihon Koshu Eisei Zasshi (Japanese Journal of Public Health). 1992; 39(9): 707–713. - 国内大学病院におけるAeromonas敗血症7例の検討
Morinaga Y, et al. Clinical Characteristics of Seven Patients with Aeromonas Septicemia in a Japanese Hospital. Tohoku J Exp Med. 2011;225(2):81–84. - 国内におけるAeromonas菌血症36例の検討
Kimura M, et al. Aeromonas caviae is the most frequent pathogen amongst cases of Aeromonas bacteremia in Japan. Scand J Infect Dis. 2013; 45(4): 304-309. - Aeromonasによる壊死性筋膜炎72例の検討
Huang TY, et al. Rational Use of Antibiotics and Education Improved Aeromonas Necrotizing Fasciitis Outcomes in Taiwan: A 19-Year Experience. Antibiotics. 2022; 11(12): 1782. - 英国で報告された A. hydrophila による院内感染アウトブレイクの報告
Mellersh AR, Norman P, Smith GH. Aeromonas hydrophila: an outbreak of hospital infection. J Hosp Infect. 1984;5(4):425–430. doi:10.1016/0195-6701(84)90012-4.
